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仙台高等裁判所秋田支部 昭和27年(ナ)1号 判決

原告 竹村由雄 外一二名

被告 青森県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「昭和二十六年十一月四日執行された青森県南津軽郡町居村長選挙に関し、選挙人竹村由雄外十一名並びに同櫛引清司外二名が右町居村選挙管理委員会に対し為した異議申立に対する同委員会の決定に対する同訴外人等の訴願を棄却した被告の裁決を取消す。前記村長選挙に於ける水木孫一郎の当選を無効とする。」との判決を求め、その請求の原因として、前示町居村長選挙は、昭和二十六年十月十五日告示され同年十一月四日執行されたのであるから、その立候補届出のできる最終日は公職選挙法第八十六条第一項により同年十月二十五日であつた。訴外水木孫一郎は同年十月十六日その立候補届出を為したのであるが、その当時同訴外人は前記町居村の公平委員会委員在職中で公職選挙法第八十九条により同村長候補者たり得ない公務員であつたから、右公務員在職のまま為された同訴外人の右立候補届は法律上有効たり得ない。尤も同訴外人は同年十月二十七日右公平委員会委員を辞し、同年同月三十日右立候補をも辞退し、同日訴外斎藤幸作から推薦届出があつたのであるが、当初の立候補届出が無効である以上、町居村選挙長において誤つて右立候補届を受理したからといつて、これによりその届出人に立候補資格を賦与し得る道理なく、結局右村長選挙における立候補者は正規の期間内に立候補届出を為した訴外成田藤蔵一名だけであつたといわねばならず、従つて公職選挙法第八十六条第四項適用の余地はない。されば右村長選挙は公職選挙法第百条第一項、第四項に違反して為された違法があり、訴外水木孫一郎の町居村長当選は無効であらねばならぬ。そこで同選挙人である原告竹村由雄等は昭和二十六年十一月七日町居村選挙管理委員会に対し異議の申立を為したのであるが、同年同月二十六日同委員会は異議却下の決定をしたので、原告等は更に同年十二月七日被告に対し訴願を提起したところ被告は同年十二月二十七日これに対し棄却の裁決を為し、該裁決書は同年同月三十一日訴願人等に送達された。そこで原告等は選挙の公正を図るため本訴請求に及んだ次第であると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告等主張の各日時その主張の町居村長選挙の告示並びに執行が為されたこと、訴外水木孫一郎が昭和二十六年十月十六日その立候補届出を為したこと、同人が同年十月二十七日(但し日附は十月十六日)同村公平委員会委員の辞職届出を為し、同年十月三十日右立候補をも辞退し、同日訴外斎藤幸作の推薦届出により補充立候補したこと、右選挙において訴外成田藤蔵が正規の期間内に立候補の届出を為し、選挙執行の結果、前記水木孫一郎が当選者と決定せられたこと、右当選の効力に関し、原告等主張の各日時その主張の如き異議申立、異議却下決定、訴願提起、訴願棄却の裁決並びに同裁決書の送達のあつたことはこれを争わない。しかし前記水木孫一郎は当初立候補当時自己が居村の公平委員会委員とされていることを全然知らなかつた。同人は同委員就職を承諾したこともなく、又招集を受けたこともない。同人は右立候補届出後はじめて自己を右公平委員会委員に任命する手続のとられた事実を知り、右選挙後当選の暁、右事実に基き当選の効力を云為する行政争訟の提起を見る等の事態の発生を避止せんが為め念のため前述の如き公平委員会委員の辞任、村長立候補の辞退等の手続をとり改めて他の推薦により補充立候補を諾した次第で、右補充立候補は適法であるから原告等の本訴請求は理由がないと述べた。(立証省略)

当裁判所は職権を以つて証人長谷川三郎を訊問した。

三、理  由

青森県南津軽郡町居村長選挙が昭和二十六年十月十五日告示され、同年十一月四日執行せられたこと、訴外水木孫一郎が同年十月十六日その立候補届出を為したが、同年十月三十日右立候補を辞退した上、同日訴外斎藤幸作の推薦届出により補充立候補したこと、右選挙において右水木孫一郎の外に訴外成田藤蔵が正規の期間内に立候補し選挙の結果右水木孫一郎が当選者と決定せられたこと、右に対し、原告等主張の各日時その主張のような異議申立、これに対する決定訴願提起、その裁決のあつたことは当事者間に争がない。原告等は「右水木孫一郎の立候補届出当時同人は居村町居村の公平委員会委員であつたのに、これを辞することなくして立候補したのであるから、該立候補は無効である。従つて正規の期間内に適法な立候補届出を為した者は成田藤蔵のみであつたといわねばならない。同法第八十六条第四項は適法な立候補届出を為した者が二人以上あつた場合に適用を見る規定であつて、適法な立候補者が前記の如く成田藤蔵一人に過ぎない本件の如き場合には、その適用を見る余地はない。右水木孫一郎の公平委員会委員辞任、立候補辞退後の補充立候補推薦届出によつて同人の立候補が適法となる理がない。」と主張するのであるが、公職選挙法第八十六条第四項に所謂「同条第一項及び第二項の期間内に届出のあつた候補者が二人以上の場合」とは、同条第一、二項所定の期間内に一応形式的に有効な立候補届出として当該選挙における選挙長によりその立候補届出書を受理された候補者が二人以上ある場合であつて、必ずしも実質的に有効な立候補届出を為した候補者が二人以上あることを必要とするものではないと解すべきである。蓋し同法条は二人以上の当選を争う立候補者あるがために自ら立候補届出を為し又は第三者を立候補者として推薦することを遠慮し、又は躊躇乃至断念した者のあるべきことが一般的に予想されるので、立候補届出(推薦届出を含む)期間経過後に至り、既に立候補届出を為した者の内死亡者又は立候補辞退者が生じた結果、立候補者が一人に過ぎなくなり投票の必要がなくなつた場合に補充立候補届出又はその推薦届出を為す機会を一般的に与えることが相当であるとなし、その機会を与えることがその立法の狙いであることは殆んど容疑の余地のないところであり、一面現行法上立候補届出又はその推薦届出の受理につき選挙長において実質的審査権を有すると解すべき理拠がない以上、前記の如く解することが相当であるからである。ただこの見解をとるとすれば、叙上の場合立候補辞退によりこの事態を招来した当の立候補者自身が自ら補充立候補届出を為し得ると解することが前叙立法の趣旨に合致するや否やについては、多少の疑問を狭む余地がないでもないが、それは姑く措き、本件の如く第三者がその者の立候補推薦届出を為す場合、それが有効であるためには被推薦者の承諾を得ることが必要な前提条件ではあるが、推薦者たる第三者はその固有の権利に基き推薦を為すことを許されているものであり、その固有の権利は十分尊重さるべきは当然であるから、被推薦者に存する前記の如き事情により推薦者の権利に消長を来し、推薦者がその固有の権利を行使することを許されなくなると解すべき理拠はない。今本件につきこれを観るに、訴外水木孫一郎、成田藤蔵の前記立候補届出が正規の届出期間内に選挙長により受理せられたことは本件口頭弁論の全趣旨に徴し、当事者間に争のないこと明かであつて、その受理が取消その他により失効した事実の認むべきものがないのであるから、正規の届出期間内に立候補届出したる者が二人あつたというべきところ、同年十月三十日前記水木孫一郎が合式の手続を履践して立候補を辞退したことは証人水木孫一郎の証言及び本件口頭弁論の全趣旨により明かであるから、同人の立候補辞退により立候補者が成田藤蔵一人となり、公職選挙法第八十六条第四項の適用を見るべき条件が完全に充足されるに至つたものというべく、従つて本件選挙の期日前五日前に為された訴外斎藤幸作の水木孫一郎補充立候補推薦の届出は、当時既に水木孫一郎に於て合式の手続を履践して公平委員会委員を辞任していたことが証人水木孫一郎の証言及び本件口頭弁論の全趣旨により明かである以上有効であるといわねばならない。然らば右と異る見地に立ち右補充立候補推薦の届出を無効とする見解をを前提とする原告の本訴請求は爾余の点につき判断を用うるまでもなく理由なしとしてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 豊川博雅 西田賢次郎 浜辺信義)

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